2007年4月12日木曜日

包茎を切る前に

ペニスの先端部分(亀頭)が包皮で覆い隠されている「包茎」。包皮を切り取る手術を勧める情報があふれているが、果たして手術は必要なのだろうか。(石塚人生)

 特に思春期の男子にとって、包茎は大きな悩みの種だ。自分だけが周囲と違い、将来ちゃんと性行為ができるのかなどと思いつめる人は少なくないだろう。

 だが、神戸市の泌尿器科医、石川英二さんは国内外の多くの論文を検証した上で、「日本人男性の8割程度が広い意味での包茎と見なされるが、恥ずかしいことは何もない。手術まで必要になる人は0・1%に満たない」と主張する。石川さんは昨年、著書「切ってはいけません! 日本人が知らない包茎の真実」(新潮社)を出版した。

 包茎には大きく分けて、包皮が亀頭にくっついていてまったく反転できない「真性包茎」と、ふだんは包皮に包まれているものの容易に反転できる「仮性包茎」があるとされる。

 男の子は、生まれて間もなくは100%真性包茎だ。年齢とともにペニスも成長し、思春期になれば、6割以上は包皮が自然に反転できるようになってくる。

外国では「仮性」含めず

 ただし、この二つに分類するのは世界中で日本ぐらいだ。「仮性」は外国では包茎には分類されておらず、決して異常ではない。何ら手術の必要などないのだ。

 真性包茎は1%程度。この場合も、ステロイドの塗り薬で包皮を広げていく治療が普及しつつある。幼児から思春期までの9割は薬で効果があったとの研究もアメリカで発表されている。泌尿器科や小児科で、薬の治療が可能か相談すると良い。

 本来の意味で手術が必要になるのは、尿や雑菌などで亀頭に炎症が起きる包皮炎を繰り返す場合や、思春期以降も包皮が反転できるようにならない場合などに限られる。小さな子どもを除いて手術は局所麻酔の上、皮だけを切り取る方法で、保険もきく。自己負担は1万~3万円程度だ。

 一方、仮性包茎は見た目だけの問題なので、美容外科手術などと同様、保険はきかない。費用は10万~20万円程度かかる場合が多いと見られる。

 「問題は見た目を重視するあまり、皮を切除し過ぎて重大な後遺症が出る場合があること」と石川さんは指摘する。

 包茎の手術は勃起(ぼっき)しない状態で行う。この状態で亀頭の完全露出を目指すと、医師が想定する伸長率を超えて勃起した場合、手術後に包皮が引っ張られて常に激しい痛みが出ることが珍しくないという。手術の傷も必ず残る。危険性もあることを十分理解しよう。

幼児なのに、包茎を気にする親は少なくない。最近は、包皮を反転させて洗い、清潔にするよう指導される場合もある。だが、独協医大越谷病院泌尿器科助教授で、日本小児泌尿器科学会理事の中井秀郎(ひでお)さんは「無理にむいて洗うのは危険」と注意を呼びかける。

 子どもの包皮は伸びにくく、無理にむいて洗うと包皮が傷つき、傷跡が修復される過程で真性包茎になってしまう場合があるからだ。

 中井さんは「包皮をむかない状態で普段からきれいに洗えば済む。包皮炎を起こす場合も抗生物質の飲み薬を使う」と言う。それでも包茎が気になる場合は、包皮を広げる塗り薬を使えばいい。

 包茎について医師の考え方が様々なことが、手術情報が独り歩きする原因にもなっている。小児泌尿器科学会では数年内にも診療指針をまとめる予定だという。

 幼児期に焦って包茎を手術する必要はほとんどない。成長を待ち、医学的な面から本当に必要であれば、思春期以降に手術を受ければ十分なようだ。


(読売新聞)



ラベル:

2007年4月6日金曜日

ダルフール難民への援助 現地報告

世界各地で医療に携わっている方たちの健康と幸せをお祈りします。

世界平和を目指して!

以下、asahi.comより

紛争のつづくスーダン西部ダルフール地方に隣接するチャドで、2006年7月から1カ月間MSFの援助プログラムに参加した臼井律郎医師の報告です。

<紛争による難民の流入>

 2003年、チャドへの難民の流入は、隣国スーダン・ダルフール地方で起こった人道危機の最初の兆候でした。2004年以降、チャドへの難民は20万人、ダルフール内の避難民は200万人を数え、国境なき医師団(MSF)は、スーダンとチャドの双方で活動を続けています。

 今回私が派遣されたアドレは、ダルフールとの国境沿いに活動を展開するMSFのチャド側の拠点のひとつです。アドレの町には、チャド軍兵士が多く常駐していますが、町の周囲にはスーダン政府に支援されたチャド人ゲリラがおり、しばしばアドレを攻撃します。また、国境の反対側のダルフールではゲリラによる戦闘が頻発し、砲撃の音はアドレまで届いてきます。

<アドレにおけるMSFの活動>

 アドレのチームは、6名の海外派遣スタッフを中心として、地域で唯一の手術室を持つアドレ病院に内科医・外科医・看護師や物資を提供し、ダルフール難民や地域の人たちを治療しています。

 また、アドレの町で戦闘があった場合には、多数の負傷者にも対処します。外科チームは、集中治療室、外科病棟と、MSFが設置した外科用テントを受け持ち、外傷や、銃などによる戦傷、腹膜炎など腹部外科、植皮、ヘルニア、包茎、帝王切開など多岐にわたる症例を診察しています。週20~30の手術例のうち、約3分の1が緊急手術です。

 外科以外の病態で多いのは小児の低栄養で、栄養治療食や治療ミルクを用いて対応します。小児の下痢や肺炎も多く見られます。マラリアも多く、ここでは、熱帯熱マラリア原虫(P.Falciparum)による薬剤耐性マラリアと、抗マラリア薬のキニーネが効く三日熱マラリア原虫(P.Vivax)が混在しています。簡易診断キットと血液塗沫標本を組み合わせて診断し治療します。HIV/エイズは、アフリカの他の地域に比べてさほど多くはなく、人口に対する感染者の割合は数%ないし10%以下と言われています。

 MSFは、現場で聞いた患者さんたちの生の声を活動に反映させることで、より必要に見合った、質の高い援助を提供するよう心がけています。世界19カ国にあるMSF支部の会長も、可能な限り現地活動に参加することを申し合わせています。今後も、こうした現地の様子を、ときには、私自らが皆さまにお伝えできたらと考えています。臼井律郎(うすい・りつろう)外科医・国境なき医師団日本会長 1996年より国境なき医師団の活動に参加(スリランカ96・98・04年、ブルンジ01年、チャド06年)。2005年4月からは同日本支部の会長を務める。