包茎を切る前に
ペニスの先端部分(亀頭)が包皮で覆い隠されている「包茎」。包皮を切り取る手術を勧める情報があふれているが、果たして手術は必要なのだろうか。(石塚人生)
特に思春期の男子にとって、包茎は大きな悩みの種だ。自分だけが周囲と違い、将来ちゃんと性行為ができるのかなどと思いつめる人は少なくないだろう。
だが、神戸市の泌尿器科医、石川英二さんは国内外の多くの論文を検証した上で、「日本人男性の8割程度が広い意味での包茎と見なされるが、恥ずかしいことは何もない。手術まで必要になる人は0・1%に満たない」と主張する。石川さんは昨年、著書「切ってはいけません! 日本人が知らない包茎の真実」(新潮社)を出版した。
包茎には大きく分けて、包皮が亀頭にくっついていてまったく反転できない「真性包茎」と、ふだんは包皮に包まれているものの容易に反転できる「仮性包茎」があるとされる。
男の子は、生まれて間もなくは100%真性包茎だ。年齢とともにペニスも成長し、思春期になれば、6割以上は包皮が自然に反転できるようになってくる。
外国では「仮性」含めず
ただし、この二つに分類するのは世界中で日本ぐらいだ。「仮性」は外国では包茎には分類されておらず、決して異常ではない。何ら手術の必要などないのだ。
真性包茎は1%程度。この場合も、ステロイドの塗り薬で包皮を広げていく治療が普及しつつある。幼児から思春期までの9割は薬で効果があったとの研究もアメリカで発表されている。泌尿器科や小児科で、薬の治療が可能か相談すると良い。
本来の意味で手術が必要になるのは、尿や雑菌などで亀頭に炎症が起きる包皮炎を繰り返す場合や、思春期以降も包皮が反転できるようにならない場合などに限られる。小さな子どもを除いて手術は局所麻酔の上、皮だけを切り取る方法で、保険もきく。自己負担は1万~3万円程度だ。
一方、仮性包茎は見た目だけの問題なので、美容外科手術などと同様、保険はきかない。費用は10万~20万円程度かかる場合が多いと見られる。
「問題は見た目を重視するあまり、皮を切除し過ぎて重大な後遺症が出る場合があること」と石川さんは指摘する。
包茎の手術は勃起(ぼっき)しない状態で行う。この状態で亀頭の完全露出を目指すと、医師が想定する伸長率を超えて勃起した場合、手術後に包皮が引っ張られて常に激しい痛みが出ることが珍しくないという。手術の傷も必ず残る。危険性もあることを十分理解しよう。
幼児なのに、包茎を気にする親は少なくない。最近は、包皮を反転させて洗い、清潔にするよう指導される場合もある。だが、独協医大越谷病院泌尿器科助教授で、日本小児泌尿器科学会理事の中井秀郎(ひでお)さんは「無理にむいて洗うのは危険」と注意を呼びかける。
子どもの包皮は伸びにくく、無理にむいて洗うと包皮が傷つき、傷跡が修復される過程で真性包茎になってしまう場合があるからだ。
中井さんは「包皮をむかない状態で普段からきれいに洗えば済む。包皮炎を起こす場合も抗生物質の飲み薬を使う」と言う。それでも包茎が気になる場合は、包皮を広げる塗り薬を使えばいい。
包茎について医師の考え方が様々なことが、手術情報が独り歩きする原因にもなっている。小児泌尿器科学会では数年内にも診療指針をまとめる予定だという。
幼児期に焦って包茎を手術する必要はほとんどない。成長を待ち、医学的な面から本当に必要であれば、思春期以降に手術を受ければ十分なようだ。
ラベル: 包茎手術